リレー連載第1回 志磨珠彦役/小林裕介

――原作を最初にご覧になったときの感触はいかがでしたか?

小林 大正時代という時代だからなのか、今よりも自由の幅が狭いために珠彦はいろいろとがんじがらめになっているんだなというのが最初の印象でした。その苦しみをどこで発散していいのか、どこへ向ければいいのかわからない。その煩わしさはこの時代ならではなのかなと。一方で、マンガ表現としては雅(みやび)なものを感じさせられて、絵画を見ているような感覚になる素敵な作品だと思いました。

 

――小林さん演じる志磨珠彦はどんな人物だと捉えていますか?

小林 開口一番、自分を「ペシミスト(厭世家)」と呼んでしまうような世を憂いたキャラクターです。志磨家という名家に生まれながらも、母を亡くし右手の自由も失ったことで存在価値がないと烙印を押され、家を追放された状態にあります。現代であればそれでも一人でなんとかなる場所や方法があると思いますが、この時代だと物理的にもメンタル的にも難しく、とにかく生き方に苦しみ続けている状況です。

 

――確かにかなりネガティブな人物ですよね。

小林 そうなんです。そういう状況なので、立ち直るのに時間がかかったり、少し光明が差してもすぐに気分が落ちてしまったり……。悪い言い方をすると、ちょっと面倒なキャラクターですね(笑)。

 

――ははは(笑)。

小林 「もうちょっと前を向いてもいいんじゃない?」と思うときもありますが、そのぶんユヅ(立花夕月)を始めとした周囲のキャラクターたちが“陽”に振り切れているので、僕も臆することなく“陰”の方向に進んでいけました。

――本作はオーディションだったそうですが、どのような役作りで臨まれたのでしょうか。

小林 原作で印象的だったのが、シリアスな部分とコミカルな部分のギャップです。どちらに合わせるべきか考えていたら、「あまり画に引っ張られず、ナチュラルなお芝居でやってほしい」とのことで、変に抑揚や感情をつけすぎずに演じるようにしました。特に珠彦のオーディション原稿は暗めのセリフが多かったんです。なので暗い感情の中で表現の幅を探っていくようにしました。

 

――実際にアフレコが始まってからも、その方向性で演じられたんですか?

小林 羽鳥(潤)監督がおっしゃっていたのは、やはりギャグのところはギャグにしてほしいとのことでした。その塩梅をどうするか、どこまで振り切っていいのかは、ユヅ役の会沢(紗弥)さんと掛け合いながら探り探りやっていましたね。特に最初の数話は、かなり慎重にやっていたと思います。監督とも「ここで気持ちがはじけた分、シリアスなところではしっかりシリアスに戻しましょう」といった相談をしながらつくっていきました。

 

――ほかには何か大切にしたことなどはありますか?

小林 珠彦は本当に沈むときは沈んでしまうので、彼に焦点を当てると、人によっては嫌悪感を抱かれるんじゃないかと思ったんです。なるべく嫌悪されないように、視聴者の方にも好かれるような珠彦にしたいという思いはありました。具体的にどうしたか、言葉にするのは難しいんですが……。それを意識することで出てくる音も変わると思うので、なるべくイヤな奴にならないようにしたいと思いながら演じました。

 

――演じていて楽しいと思ったところはどんなところでしょうか?

小林 話数が進んでいくごとにユヅやほかのキャラクターに翻弄されるシーンがどんどん増えていくんです。それもイヤな翻弄のされ方ではなく、楽しく、心地いいものだったりするので、「不器用な性格なりのかわいらしさ」みたいな部分を出すのは楽しかったですね。ここぞとばかりに、楽しい要素を盛り込みました。

あとは村の子どもたちと触れあうシーンも出てくるんですが、そういう場面にふいに見せるお兄さん的な一面もいいなと思いました。「もともと彼はこういう人間だったんだな」というのがわかると思うので、楽しみにしていただけたら嬉しいです。

 

――夕月役の会沢さんとの掛け合いはいかがでしたか?

小林 会沢さんとはこの現場がはじめましてだったんです。お互い人見知りなところがあり、最初はすごく静かにしていた記憶があって(笑)、アフレコを重ねながらお互いを知っていくような感じでした。

でも、第1話の段階で会沢さんのユヅには包み込むような優しさを感じましたし、セリフを一つ一つ丁寧に投げかけてくれたので、これなら安心して面倒な性格の珠彦を演じられるなと思ったんです。そういう意味では会沢さんにおんぶに抱っこ状態でしたが、丁寧に受け止めてくださったのが嬉しかったですし、とても心地よかったです。

 

――珠彦と夕月の関係性についてはどうご覧になりましたか?

小林 珠彦は心を閉ざしていて、ユヅはワケありでやって来た身なので、一体どうやって仲が深まっていくんだろうと思ったんです。結果的に思ったのは、女房のほうが強いな、と。

 

――夕月がリードしていくような?

小林 そうですね。珠彦も頑張ろうとはしますが、基本的にはユヅに引っ張ってもらう形になるので、最初は「珠彦、甘えてるな~」と思われるかもしれません(笑)。言い換えれば、献身的に尽くすユヅがとても魅力的に映るのではないかと思います。

――小林さんがキュンとしたポイントを教えていただけますか。

小林 やっぱりユヅの積極性ですね! 「夫婦になったからには、こういうことがしたい!」「これもやってみましょう!」と、直接言葉にして珠彦にぶつけてくれるんです。何かときっかけを作ってくれるのはユヅですし、見ていて「積極的な女性っていいなぁ」なんて思ってしまいます(笑)。一方の珠彦はうろたえてばかりなので、「そこはいこうよ!」と心の中でツッコミを入れながら演じていました。

 

――「女は男の三歩後ろを歩け」のような時代的な抑圧があるものと思いきや……。

小林 全然違いましたね。僕も勝手にこの時代の女性はもっと奥手なものだと思っていましたが、どの時代でも男女の仲というのは変わらないのかなって。もちろん昔のほうが自由度は少ないと思いますし、二人の環境が特殊ということもありますが……。ユヅもまた僕らと変わらない感情を抱きながら生きているとわかると、より親近感を覚えますね。

 

――では最後に、放送を楽しみにしている方へメッセージをいただけますか?

小林 この作品は、ユヅのかわいらしさと献身性を見ていただくアニメだと思っています。主人公は珠彦かもしれませんが、ユヅこそ本当の主人公かと思うくらい、彼女なくして物語は進まないので、ぜひユヅの活躍に注目してください。

また色彩や美術も素晴らしいです。アフレコも前半はカラーの映像ですることができて、色鮮やかだけど明るすぎない、時代性と見栄えのよさのある色彩と美術に心を奪われました。美術からは「大正時代にはもうエスカレーターがあったんだ!」みたいな発見もあると思います。隅々までご覧になってください。

 

 

◆コラム
「大正オトメ御伽話」の魅力をひと言で表すと?

 

恋愛がテーマではありますが、どこか奥ゆかしさを感じる作品なので、旧字の「戀」にしました。奥ゆかしい恋を楽しんでいただけたら嬉しいです。

 

 

衣装協力:学校法人清水学園 専門学校清水とき・きものアカデミア
( @shimizugakuen )
撮影場所:代官山鳳鳴館 https://instagram.com/homeikan/
インタビュー:岩倉 大輔