リレー連載第6回 渥美 綾役/安済知佳

――原作の第一印象はいかがでしたか?

安済 大正時代というと「大正ロマン」とか「モダン(モダンガール・モダンボーイ)」のような、西洋の文化がだいぶ馴染んだおしゃれな時代というイメージがあったんです。キャラクターデザインもすごくかわいいですし、最初は内容もおしゃれでかわいい世界観なのかなと思っていました。

でも原作を読ませていただくと、その時代特有の慣習や形式に苦しめられる珠彦や綾たちの心情も丁寧に描かれていて。ラブコメとしての面白さだけではなく、「陰」の部分にもスポットライトが当たっていたんです。それがまたキャラクターたちに深みを与えていて、キャラクターたちがより魅力的に見えました。

 

――綾はオーディションだったんですか?

安済 はい。いただいた資料に描かれた綾がかわいくて、「この子を演じたい」って一目惚れしました。ただ、オーディションではそのかわいらしさに引っ張られてしまったところがあって……。オーディション原稿には綾が心を乱して涙を流す場面もあったんですが、あまりリアルに泣いてしまうと画に合わないかなと思ったんです。

そのときに、音響監督の郷(文裕貴)さんから「もっとリアルに心情を表して、胸が痛くなるような、涙があふれるような感じでやってください」とディレクションをいただいて。画はかわいいけれど、お芝居は生っぽさを大事にするんだなと、演技の方向性が掴めるようになりました。

 

――安済さんからご覧になった綾はどんな女性ですか?

安済 公式のキャラクター紹介にもある通り、酒浸りの父に育てられ母親代わりに弟の面倒を見ているという、かなり複雑な家庭環境にいる女の子です。18歳というと当時では大人の扱いだと思いますが、そうは言ってもまだ18歳。心の成長は完全ではないですし、多感なところもたくさんあって、常にモヤモヤとしたものを抱えています。

 

――かなり背負っているものが大きいんですね。

安済 そうなんです。父からつらい目に遭わされ、頼れる人もなく、甘えられる人もいない。父への憤りを抱えながら、それでも三人の弟を育てるために頑張るという義務感、使命感を背負っていて。本来は優しい子なんですが……珠彦とユヅ(夕月)にとっては、立ちはだかる敵のような存在なんです。

 

――キャラクター紹介にもありますね。「珠彦と夕月には敵対心を持っている」と

安済 二人の関係を引っかき回し、物語をぐいぐい進める役割として登場するので、珠彦とユヅが好きになった人にとっては、第一印象は最悪かもしれません(笑)。でも、逆に「どうせなら、とことんまで悪い女として演じてやろう!」という気持ちで演じました。綾が登場することで、二人の関係性がどう変化し、深まっていくのか見ていただけたら嬉しいです。

 

――かなり「悪女感」のある子なんですね。

安済 そうですね。二人にかなりひどいことをする子ですし、最初は綾の行動にもセリフにも私自身がびっくりしてしまって。だからこそ、珠彦もユヅもまとめて傷つけてやろう……というと大げさかもしれませんが(笑)、二人にとっての大きな壁になれたらいいなという気持ちで演じました。

 

――演じていて特に楽しいと感じるところはどんなところですか?

安済 あまり演じたことのない役なので、綾を演じられたこと自体が新鮮で楽しかったです。あとは珠彦とユヅを嫌悪していますが、根は家族思いの優しい女の子なところ。怒りの矛先が変わってしまったがゆえに、敵対心が剥き出しになってしまう。悪い子だから悪いことをするわけではないんです。見方を変えると受け取り方が変わってくるところがすごく面白いなと思いました。

 

――何かアフレコで思い出に残っていることはありますか?

安済 珠彦とユヅを演じる小林(裕介)さんと会沢(紗弥)さんには、「ごめんね、ごめんね」と謝りました。というのも、綾は途中からの参加になるので、アフレコ前に参考としてそれまでの映像を見させていただいたんです。とにかく珠彦とユヅの関係性がかわいらしくて、初々しくて、キュンキュンしたんですが、「あ、私はこれをぶち壊しにいくんだ……」と思ってしまって(笑)。

 

――ははは(笑)。

安済 珠彦とユヅには申し訳ないなと思いつつ、演者としてはやりがいのある役どころなので、とても複雑な心境でした。

 

――綾の登場を楽しみにしております。では、珠彦と夕月の関係性については、どんなところに惹かれましたか?

安済 どんなに過酷な状況でも、お互い一生懸命、ちゃんと向き合うところですね。珠彦の育ってきた環境も、勝手に縁談が決まることも、実際にそういうことがあったのかもしれませんが、現代の私たちからすればかなり特殊な状況だと思うんです。珠彦は家を追い出され、夕月は妻として嫁がされ、「はじめまして」で夫婦にならなければいけない。

そんな状況でもちゃんとお互いを尊重し合って生きていこうとするところにときめきました。二人からは、まさにこのキャラクターデザインから伝わってくるほんわかした雰囲気、かわいらしい雰囲気が伝わってくるので、見ていてきっと幸せになれると思います。

 

――綾、珠彦、夕月以外で注目してほしいキャラクターは誰ですか?

安済 綾の弟たちにも注目していただきたいです。みんなかわいいんですが、綾太郎という綾自身も心の支えにしている弟が特に素直で健気なんです。そうれはもう、「よくここまでいい子に育ったね」って、うるっとしちゃうくらい。きっと皆さんも綾太郎に癒やされると思います。

綾と弟たちのやりとりからは、いかにこの姉弟が力を合わせて生きてきたかもわかると思うので、優しく見守っていただけたら嬉しいです。

 

――では、放送を楽しみにしているファンの方へメッセージをお願いします。

安済 「大正オトメ御伽話」との出会いをきっかけに、大正時代という一つの時代について考えるようになりました。もちろん、すべてを知ることができたわけではありませんが、今とは全然違った文化、風習、考え方がわずか百年前に存在したことを学び、いろいろな気づきが得られました。

その一方で、今も昔も変わらない珠彦とユヅの恋心にキュンキュンして。二人の人柄、真っ直ぐさに心を洗われたので、ぜひ皆さんにもアニメをご覧いただいて生活の潤いにしていただけたら嬉しいです。放送を楽しみにしていてください!

 


◆コラム
「大正オトメ御伽話」の魅力をひと言で表すと?

胸がキュンキュンするような展開もあれば、胸が締め付けられる苦しい展開もあって。喜びも悲しみも、いろいろな感情がわき上がる作品だなと思いました。

 

 

衣装協力:学校法人清水学園 専門学校清水とき・きものアカデミア
( @shimizugakuen )
撮影場所:代官山鳳鳴館 https://instagram.com/homeikan/
インタビュー:岩倉 大輔